田んぼの真ん中で、ようやく呼吸ができた。 かつて、私は数字とグラフの世界に生きていました。 膨大なデータを読み解き、確からしさを組み立てる毎日。 気づけば、心も体も静かにすり減っていて、 何が大切だったのか、自分の輪郭さえ曖昧になっていました。 そんなとき、父が耕す田んぼに立ったのです。 風が吹き、草がそよぎ、土に触れる。 鳥がさえずり、虫の羽音がすぐそばで響く。 ふいに思い出しました。 子どものころ、鳥や虫が大好きだった自分のことを。 「ああ、自然の中で私は、生きているんだ」 深く息を吸い込みたくなるような感覚が、 少しずつ、戻ってきたのです。 自然の呼吸とともに、静かに育てていく私たちの農業を「深呼吸農法」と名づけました。 命のリズムに合わせて、手をかけ、待つ。 やさしい暮らしに寄り添うものを、ひとつひとつ。 ていねいに、誠実に。 そんなものづくりの先には、 不思議と、いい人たちが集まってきてくれます。 “手触りのあるものづくり”を、 今日も、能登の田んぼから。